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2015年4月 インタビュー

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四月も下旬となりました。引き続き忙しく活躍なさる宗典さんに、近況を語って頂きます。

Q.今年三月末をもって、渋谷区松濤の観世能楽堂が閉鎖されました。どのような思いで過ごされましたか?

A.三月の最後の一週間がさよなら公演でした。終わって打ち上げがありまして、翌日に片付けがあり、私も手伝いに行きました。初舞台、初シテ、全部の披きものを行い、圧倒的な数の舞台を経験した、私にとっては特別な意味合いのある能楽堂でした。寂しさは勿論あるのですけれど、これから未来に向けて頑張っていかなくてはいけませんね。二年後の銀座での新能楽堂オープンには、実力をつけて臨みたいです。自分ではそんなに意識していないと思っていたのに、ついに2、3日前に、松濤の観世能楽堂の楽屋にいる夢を見ました(笑)。これから舞台に立つでもなく、理由はわからないけれど楽屋にいる、という夢でした(笑)。やはり感傷的だったのですね。これからの二年間は他の能楽堂で勉強する機会です。チャンスですね。いろいろな能楽堂で舞うのも良い経験でしょう。

Q.松濤の舞台の板は、銀座の新能楽堂に移築されると伺いました。

A.あらゆる能楽堂の中で、観世のあの板はベストに近いと思っていましたので、あれが移築されて今後も使われるというのはとても嬉しいです。板が残るのは、松濤の能楽堂が全部消滅したのではないということでもありますしね。履物を履くことはなく、足袋だけで足をすって歩く・舞うという私達にとって、板には大きな意味があります。質の良い板が次の舞台にも使用されるのは、大変ありがたいです。

Q.今月11日には、宝生(ほうしょう)能楽堂で朋の会が催されました。

A.過去にこちらの舞台に上がったことはありましたが、シテを舞うのは初めてでした。本舞台は変わりませんが、橋がかりがちょっと長く、傾斜もついていて、幕から舞台へ向かって上り坂になっています。こういった違いは間の取り方が違ってくるので、結構気になるものです。けれど宝生は音響も良く、舞台の使い勝手がとても良い能楽堂です。

Q.今回は熊野(ゆや)のシテに初めて挑戦なさいました。

A.熊野は大曲です。数年来やりたくて、去年朋之会の会議で希望を提出したら、伯父が「いいだろう、やってみなさい」と言ってくれたので、がんばってやろうと決意しました。今回は試行錯誤を重ねに重ねて、どう役作りをするか、どう表現するか、ああでもないこうでもないと苦しみながら考えました。自分で言うのもなんですが、まずまず合格点だったかな、という出来でした。このところ不満が残るものがありましたが、今回はいい方であったのではないか(苦笑)、試みた自分の精一杯がまあ出来たな、という感触を得ました。

Q.役作りとは実際どのようなものでしょうか?

A.勿論型はあって、それらを守らなければいけませんけれど、能には皆さんの想像以上に自由なところもあるのです。自分で工夫して、師匠に見てもらって承諾頂ければオーケーなのです。今回の熊野は父に見てもらい、伯父にもお家元にも見て頂きました。工夫とは動きもそうですけれど、動きより謡ですね。「息の出し入れ」と言いますが、つまりは謡の謡い方です。ここはこう、ここはこう、と細かい要素があって、それが役の全体像を作っている。細かいそれらに少々の工夫をすることで、悲壮感が強調されるとか、可愛らしさが引き立つ、といった違いが出てくる。試行錯誤とはそういうものです。

Q.試行錯誤をこらしたのにうまく行かなかった時は、引きずるタイプですか?

A.ぐずぐず引きずりはしないけれど、うまく行かなければやはり気分はよくはないですね(苦笑)。大失敗はないけれど、「何やってんだろ」、という時もたまにはあります。能は一回公演だから、失敗は取り返そうにも取り返せない。「明日はこうしよう」というのもない。でも一回勝負は能の良いところでもあります。

Q.来月の博多の舞台をご紹介ください。

A.年一回五月に父のお弟子さん達と私のお弟子さん達が参加して、発表会をいたします。素人の方々の会では、番外といって最後にプロが舞うことがあります。普通は父か私が舞ってしめくくるのですが、今回は私が提案して、乱囃子といって、囃子方が舞って謡って、私達が囃子をやるという企画をいたします。作品は「融(とおる)」です。父が笛、従兄弟の友志が太鼓、文志が小鼓、私が大鼓です。九州の囃子方さんの白坂保行さんが舞われ、他の囃子方さんや狂言方さんが地謡を謡われます。乱能と言ったものではくだけて遊ぶこともありますが、今回は本業でないものをしっかりやっているところを皆さんにお見せするのが目的ですから、あまり遊びません。能はチームワークですから、他の方々の仕事を経験するのは大切ですね。

Q.最近一生懸命になっているものはおありですか?

A.選挙運動です!幼稚園から高校まで14年間一緒だった海老原たかさと君が今回の中央区の区議選に出ていて、その応援をしています。昨日もそうでしたが、今日もこの録音まで(注:待ち合わせは16時でした)ポスターを貼ったりチラシを折ったりとか、いろいろやっていたのですよ!ほら、こんなのも(と、三つ折りにしたチラシをたくさん鞄から出す)。ひい祖父様・お祖父様・お祖母様が国会議員でいらした海老原君は、小学校の頃から将来は政治家になると決めていました。彼の活動の場は中央区、これから観世の能楽堂が建つ場所です。今回の選挙はかなり厳しく、楽観視出来ない状況です。自分でも選挙運動に関わるなんて思いもよらなかったですけれど、一友人として海老原君に出来る限りの応援をしたい、頑張って当選して欲しい、と願っています!

能楽堂閉鎖の件も含め、質問に淡々と受け答えなさっていらした宗典さんでしたが、ご友人の選挙の応援については、いきなり熱い語り口に変わられました。幼馴染みのお友達との限りなく深い友情に、心より敬服いたしました。

(インタビュアー:朱雀)

【インタビュアー追記:海老原たかさとさんは、この度の中央区議選に見事初当選なさいました。海老原区議の活動が実り多きものになりますよう、お祈り申し上げます】