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2014年3月 インタビュー

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Q. 2014年3月のインタビューでございます。まずは、次回の朋の会をご紹介ください。

A. 3月30日(日)午後1時に開演いたします。「武田同門会」と呼んでいましたのを昨年「朋の会」と名前を改めて、土日に開催という事もありまして、おかげさまでお客様の数が飛躍的に増えて参りまして、本当にありがたい事だなあと感謝しております。
私は「屋島」のシテ(主役)をさせて頂きます。「屋島」という作品は、修羅道(しゅらどう)に堕ちた源義経の幽霊が生前の戦の有様をみせるという物語です。修羅道とは、生前戦いに明け暮れた人が落ちてみそぎを果たすという場所で、仏教的な考えですね。前半は漁師のおじいさんのシテが若い男性を伴って出て来て、屋島での源平の合戦の戦物語を語りで主に表します。後半は、武将の格好で現れた義経の霊が戦の様子を舞で見せるという形になります。後半は迫力もあって特に面白いと思います。

もうひとつの邯鄲(かんたん)という作品は、能の中でも非常に魅力的な作品のひとつです。中国北部の邯鄲という都市が舞台になっています。私も以前シテをつとめさせて頂きましたが、これを同い年の従兄弟の文志(ふみゆき)がいたします。「邯鄲の枕」「一炊の夢」という故事から来ているのですけれど、人生に迷った青年が、ある宿で「不思議な枕があるからそれで寝てみないか」と言われて寝てみると、その夢の中で皇帝になって、50年の栄耀栄華を極め尽くすのですけれど、目が覚めてみるとそれは粟の飯が炊ける間の夢でしかなかったと。そこで人生に対して悟りを開いて故郷へ帰って行くというストーリーです。

これも能らしい自在な空間時間の使い方に面白いものがあって、私も好きな作品です。
「屋島」も「邯鄲」も能を初めてご覧になる方にも比較的わかりやすい作品なので、ぜひ多くの方にお越し頂きたいです!

 

Q. 最近TVに出演なさったと伺いました。

A. BS11チャンネルの「ONZE(おんぜ)」という報道番組に「今旬の人」といった感じの3、4分のコーナーがありまして、先日そこに取り上げて頂きました。伝統芸能系ではなく、演劇系でもなく、ごく普通の報道番組です。去年の秋ぐらいから追っかけて頂いて、国内国外での舞台の映像もそうですが、能面の虫干しの様子とか、「謡サロン」でのレクチャーの様子とかを中心に撮影してくださいました。

沢山の内容を上手く編集して頂いて、良い仕上がりになりました。ラジオでインタビューというのは二回程やった経験はありましたがテレビは初めてで、このような取り上げられ方も初めてで、非常に良い勉強になりました。舞台活動もさることながら、私は「謡サロン」という普及活動に力を入れているものですから、長年地味に続けて来たこの活動にスポットを当てて頂いたのは、非常に嬉しい事でした。

Q. 意欲的に取り組んでいらっしゃる海外公演についてお話しください。

A. 昨年はアメリカのシアトルで、「謡サロン」の海外バージョン的な雰囲気のものをやって参りました。まだ内容を大々的にお話し出来る段階ではないのですが(苦笑)、今年の9月にはもうひとつ拡大した公演を行う予定です。それに際して、今月11日深夜の便でシアトルに入りまして、現地のスタッフの方々と打ち合わせを詰めて参ります。

新しい試みをするので、演出上のすり合わせ作業や、能として「肝になる部分」を事前に私の方からきちんと現地スタッフにお伝えしておかなくてはいけない、という具合ですので、それらの打ち合わせをいたします。その他に、9月の本公演に向けたプレレクチャーを行います。それから、昨年の講演でお世話になった大学の先生や学生達を対象に講座といったものもいたします。実質三日の滞在ですが、働き通しですね(笑)。
私のもくろみは、単に能の紹介をするだけではではないという事です。「能の可能性を探る」と言ってはちょっと不遜なのですけれども、現地で舞台芸術に携わっている方々と一緒に実際にセッションしてみたい。そういう活動は、能を内側から、外側から見直す機会になるのではないかな、と思うのです。

能をそのままただ輸出して紹介するだけではなく、現地独自の文化とブレンドさせてみる。「オリエンタルな芸能が来たね、珍しいな、素晴らしいな」だけで終わらせず、例えば「こんなやり方があるのか」とか「ちょっとやってみようかな」というように導いてみたい、というのが自分の理想のひとつですね。

Q. 狙いは、能と海外の舞踊・演劇とのフュージョンといったものでしょうか?

A. 能が現地の方の手によって新しい形を生んでもいいし、それが日本に来ても面白いでしょう。純血種は純血種として上演する形—これは絶対に必要です。そうでないと、海外の方々に「能」というものの本質が正確に伝わりません。そちらをきちんと観て頂いた上で、新しくセッションしたものに触れていただいた時、例えば外国人で演劇の演出や舞台制作をなさる方に「能ってこういう演劇なのか」と気づいて頂く・・・既に気づいている方も大勢いらっしゃるのでしょう。

今回私がコラボするアメリカの方は作曲家で、能をモティーフにした舞踊劇を作った経験もおありなのですが、音楽としては美しいけれど、正直言って能らしさがあるかと言えば、それほど強くは感じられないのです。それはなぜかというと、実際に能を観ていらっしゃらないし、作品に能楽師が登場しないからなのです。

今回能をテーマにした作品を作られるにあたり、ぜひ私に出演して欲しいという話になりました。私が出演するのであれば、能のエッセンスをなにかしらの形で入れていきたい、私が出ている場面でもそうでない部分も、ちょっとした時間・空間の使い方や演技方法に、能の精神が反映出来たら良いなと。

Q. その様なフュージョンを「観る価値有」のレベルに到達させる秘訣は、「まやかしではない、本物の芸を披露出来る能楽師が参加する」であると想像いたしますが、いかがでしょう?

A. 全くその通りですね。自分自身はまだまだ若手ですが、私も観世のお家元の御膝元でやっている人間ですので、その責任というのは常にどこかに持っていなければいけないと思います。本物を背負いつつ、どんな新しいものを産み出せるのかな、と実験的な要素はあるのですが、まずはやってみたいと考えています。

Q. 話はがらりと変わり・・・先月東京では二度大雪にみまわれました。宗典さんの「雪で困った!」のドラマをご紹介くださいませんか?

A. ところがですねえ、実はたまたまその二日間は、全然大変ではなかったんです。最初の大雪の日は休みで、二時間程度のお弟子さんの稽古が入っていました。大雪になりそうだから、それは休みにして、終わり。その次の週の雪の日も舞台はありませんでした。2時から9時までといった長いお稽古はあったのですが、早めの時間、昼前には中止にさせていただきました。

Q. 二度もあんなに降って、ドラマ無しですか?

A. それで私は、東京では人生初のかまくらを造ったのです(爆笑)、家の前で。そんなに大きくないです。子供だったら普通に入れる、大きくない女性だったら入れるよ、っていう大きさのかまくら。何人かで一時間ちょっとくらいで造りました。流石にひとりは無理でしょー(爆笑)。楽しかったですねー。何かに取り憑かれた様に、無我夢中で造りましたね!!!すっかり童心に返りました!!!

 

かまくら

 

芸に対するひたすら真摯な姿勢と、能と外国の人々との距離感を縮めたいとの情熱と、大雪で子供の様にはしゃいだという体験談と、いつもながら内容の濃いインタビューとなりました。ありがとうございました。これからの宗典さんの益々のご活躍を大いに期待いたします。

(インタビュアー:朱雀)