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北米公演 特別編ロングインタビュー

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今回はロングインタビュー(北米編)と題し6月下旬から7月にかけて訪れた北米ツアーについて皆様への御報告も兼ねたインタビューをたっぷりお届けします(かなり長編です!)出発の6月23日から帰国の7月4日まで1日ずつ追ってまいります!

6月23日(日)

17:00の成田発シアトル行のユナイテッドエアラインに乗るため、先ずは新宿から成田エクスプレスで成田空港へ。

ここでまさかのアクシデント!スーツケースのタイヤが壊れてしまいました!!

・・・なんというスタート。仕方なくそのまま成田エクスプレスに乗り込み、一路成田空港へ。しかしこのアクシデントが現地で思わぬ幸運を呼び寄せるのです・・・。

いざ機内へ。シアトルまでの飛行時間は8時間45分。日本からアメリカ本土までの飛行時間で一番短いのがシアトル便だそうです。機内ではあまり眠れませんでしたが、隣に座った陽気な黒人さんのおかげで、とても楽しく過ごすことが出来ました。

そして現地時間の9:50シアトル到着!!プロデューサーの準子・グッドイヤーさんたちが、空港までお迎えにきてくれました。

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シアトルはワシントン州最大の都市でアメリカ西海岸の最北に位置し、カナダとも国境を接しています。人口は約62万人。深い入り江に面したシアトルは海と緑に囲まれたとても美しい街です。シアトルの西側には世界遺産のオリンピック国立公園、南東にはマウントレイニエ国立公園があり、天気がいいとその雄大な景色を一望できます。

空港までは今回のツアー中ずっとお世話になるスタッフの方にお出迎え頂きました。今回は私も文志もスタッフのお宅が滞在先となります。空港から車で約30分。シアトルからワシントン湖を挟んで東側に位置するベルビューという町に滞在させて頂くことになりました。ベルビューはハイテク産業の中心地として(隣町レドモンドにマイクロソフト社の本社がある)、また高級住宅地としても知られている町です。

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荷物を置かせて頂き、昼食を済ませ先ずは最初のお仕事、シアトル市街地の北東部にある日本庭園(Japanese Garden)へ。6月のインタビューでも少し触れていましたが、実は既に来年の北米公演もラブコールを頂いております。その下見も兼ねて行ってまいりました。

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ワシントンパーク植物園内にあるこの日本庭園は多くの日系アメリカ人によって造園、1960年に完成しました。西海岸の日本庭園では戦後最も早い時期に作られた庭園だそうで、その後のアメリカにおける日本庭園建設に影響を及ぼしたそうです。現在はワシントン大学が中心となって運営されています。庭園内には茶室もあり、今日はここで現地の裏千家の先生方とお茶会。外国人のゲストもいらして、最後に私達はお礼の意味も込めて「高砂」の謡を披露いたしました。

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その後、シアトルに来たら皆さん訪れるパイク・プレイス・マーケットへ。

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アメリカの公設市場の先駆けとなったここは2007年に創設100周年を迎えた市場。海に面して沢山のお店が並んでいます。実はスターバックス一号店もこちらにあります。この日は(も?)長蛇の列で中までは入れませんでしたが、写真だけでもご紹介。おなじみのグリーンではなく茶色がテーマカラーです。女神さまが違うの、分かりますか?

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その後、シアトルのダウンタウンが見渡せるケリーパークへ。そこからの景色は絶景で、シアトル名物スペースニードルも見渡せます!

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この日の夕食を市場で買って、今晩はのんびりホームステイ先で夕飯としました。名物のスモークサーモン、すごく美味しかったです!!

6月24日(月)

この日は朝からシアトル中心地にあるアクトシアター(6月29日公演会場)の外観を下見に行きました。

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クラシックな外観、とても素敵です。場所は在シアトル日本領事館のすぐ隣に位置しています。今回のツアーのメインとなる会場に今からワクワクしてきます。

名残惜しくも今日の公演会場へ。シアトルから西へ、ピュージェット海峡を渡ったところにある小さな島、ベインブリッジ・アイランドへフェリーで向かいます。所要時間35分。今日はこの島で子供たち向けのワークショップとブックストアでのイベントがあります。日系移民開拓の島ともよばれているこの島は2000年に公開された「ヒマラヤ杉に降る雪」という映画の舞台でも知られています。ただ、今回は夏真っ盛りでしたので、映画のような景色は望めませんでしたが。

お昼はベインブリッジ島にあるクレープ屋さんで食事しました。

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そしてまずは最初のワークショップ会場へ。アイランド・スクールで子供達にワークショップを2回致しました。小学生以下の子供達が40人ほど集まってくれました。お仕舞の実演、般若の能面を見せながら説明したり、謡「猩々」のお稽古体験もしました。あとは子供達が好きなチャンバラ体験も。すごく楽しそうで、終わってからもずっと真似をしていました。

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そして、この小さな島、人口もそんなに多くないのですが、この後、何度か訪れることになるのですが、小さな島ゆえ、町のあちこちやフェリー内などでこの子供達と何度も遭遇するのです!そうすると私の顔を見つけた途端、ハイタッチや質問攻めが始まり(笑) とてものどかな町です。

次に町のブックストアでイベントを行いました。これは、本来はこの後に予定されている公演の告知をするためにという意味も含まれていたのですが、実際シアトルに到着した時点でどこの会場も満席に近い予定だと聞いたので、軽いワークショップとサイン会がメインとなりました。ただ、予想以上に質問をしてくださる方が多く、予定時間をはるかにオーバー。嬉しい誤算となりました。

この後、滞在先のベルビューに戻り、スタッフのお1人である日本人Iさんのお宅へ。どうです、この豪邸。

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こちらで美味しい夕飯を皆でごちそうになりました。

6月25日(火)

この日も前日同様、アイランド・スクールでワークショップ。子供達は本当に天真爛漫で、講師のこちらが元気をもらえるようです。

そして午後からはベインブリッジ北部にあるブローデル・リザーブという庭園に行きました。18万坪!を超える広大な敷地は80年代まで旧ブローデル一族の所有地でしたが、現在はブローデル財団が引継ぎ一般公開されています。美しい森の中にいろんな要素を持った庭園が存在し、例えばジブリ作品を思わせる庭園であったり、英国式の庭園であったり、日本庭園も存在します。こんな所で能をお見せできたらいいなぁと思いつつ、今回の北米ツアーの中でも大変感銘を受けた場所の一つでした。

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夕飯は文志の友人(シアトル在住)と3人だけで。いかにもアメリカらしいステーキを頂きながら、ゆっくりと語らいました。

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6月26日(水)

この日はベインブリッジ・アイランドから更に北へ行ったキトサップ半島にあるポールスボーという町へ。ポールスボーはキトサップ半島の保養地として知られ、町並みはディズニーに出てくるようなおもちゃの町のようでとても可愛らしいところでした。まずは腹ごしらえ。スーパーマーケットにあるセルフで詰めるお弁当を注文。それぞれ好きなものを頂きました。

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18:00からの公演に備え、早めに会場入り。今日はこの公演で大変御世話になったワシントン大学のポール・アトキンス氏と初めてお目にかかる日なのです。ポール・アトキンス氏はまだお若くていらっしゃるのですが能楽の研究をなさっていて、今回、通訳兼解説を申し出たところ、快くお引き受け頂きました。

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今回の公演に先立ち、現地の方にも分かりやすく見て頂くため、アトキンス氏と日本にいる時から入念な打ち合わせ・台本作りをメールでやり取りさせて頂きました。このあとバンクーバー以外の公演全て御一緒して頂くのですが、この北米公演の成功の要因の一つとして「アトキンス先生の解説がとても分かりやすかった。」と英語で解説を聞かれた多くのお客様から評価を頂きました。リハーサルを入念にし、いざ本番へ。

今回使用させて頂く舞台はジュエルボックスシアターというところで、普段はコメディなどで使用される機会が多いそう。舞台を3方向から見下ろせるような作りになっており、普段の能楽堂では存在しない方向からの客席の視線も感じつつの公演となりました。

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入念なリハーサルが功を奏し、舞台は無事終了。そのままレセプションを予定していたロビー周辺へ向かったところなんと停電!!残念ながら現地の方々との交流は中止となってしまいましたが、公演中の停電ではなくて良かったと少し胸を撫で下ろしました。

停電の影響もあり、多少時間がオーバーしてしまったため、夕食は遅くまで営業してそうなスポーツバーのようなお店で。とはいえ、私達が滞在しているベルビューまではポールスボー⇒ベインブリッジ・アイランド⇒シアトル⇒ベルビューと距離があり、少なくともベインブリッジからシアトルへ渡るフェリーには何としても乗らなくてはいけないため、急ぎ車で移動。辺りも真っ暗になった中(シアトルはとても日が高く、夜の9時では昼間と変わらないくらいの明るさです!10時頃やっと暗くなります)何とかフェリーに間に合い、船内で寛いでいたところ、こんな景色が。

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疲れた私達一行を優しく温かくそして美しく出迎えてくれたシアトルの夜景。疲れもどこかへ飛んで行った夜でした。

6月27日(木)

この日は滞在先のベルビューにある日本語補習学校の生徒さんたちを対象としたワークショップ。10時頃会場であるSammamish High Schoolに向かいました。こちらは普段は文字通り高校の校舎でありますが土日は日本人学校として開放されています。この会場をお借りして今回唯一「日本語」でワークショップを行いました。

会場はとても広く、参加者は小学4年生のお子さんから高校3年生のお子さんまでおよそ400人!11:30からの講座では、冒頭に仕舞「高砂」、謡「猩々」のお稽古、DVD鑑賞、能における喜怒哀楽の表現、舞台に生徒さんを上げてすり足、差し込み開き、構えなどを体験して頂きました。他に文志・私もそれぞれ仕舞を一番ずつ披露しました。質問コーナーも設け、久しぶりに日本語での質疑応答に安堵感もありました。

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補習学校のワークショップも無事終え、一路カナダ・バンクーバーへ。途中昼食をとるため、ビル・ゲイツが大好きなカレー屋さんへ立ち寄りました。本格的なインドカレーのお店で口に合い、とても美味しくいただきました。

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スタッフも含め車2台でバンクーバーまで移動。3時間ほど経ったでしょうか。アメリカとカナダの国境を越えたところにお土産屋さんがあったので立ち寄ってみることに。これがとてもいいお土産屋さんで、販売されているTシャツがどれも可愛い!!思わずたくさん買ってしまったのです。ついでにサングラスも購入。思いもよらないところでとてもいいお買物が出来ました。

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渋滞もあり予定を少しオーバーし19時頃バンクーバーの滞在先・リステルホテルに到着。今回一泊ですが滞在させて頂くこのホテルはバンクーバー公演のスポンサーにもなって頂き、公私ともに大変御世話になりました。こちらのホテルはギャラリー的な要素もあり、色んなオブジェがところどころにあり、可愛らしいホテルです。

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こちらのホテルの支配人とバンクーバー公演の企画制作をして頂いたスタッフの方、私達シアトル組とで夜は飲茶を頂きました。

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香港からの移民(市民全体の30%近くにもなる)も多いバンクーバーは、チャイナタウンがブリティッシュコロンビア州でも最大、北米においても有数のチャイナタウンとして知られています。滞在期間が長い今回、たまにアジアのお料理が戴けるというのはホッと致します。明日の公演に向けてたっぷりと堪能させて頂きました。

6月28日(金)

この日は少し早起きしてホテル内にあるフィットネスへ行きました。少し体を動かして気分爽快。あっという間のホテル滞在を終え、チェックアウト後、車で会場へ。バンクーバーでの公演は日系プレイスというところで行いました。こちらは日系企業の自主運営によって維持管理されている建物で、シアトルと同様、ここでも国際交流の一環として公演させていただきました

http://centre.nikkeiplace.org/noh-workshops-performance-classical-dance-theatre-by-kanze-school/

この日は日本からも御一緒だった牧野順子さんの合気道プログラムと矢崎悠美さんの創芸画プログラムと私達の能楽プログラムの3つを、それぞれ時間を分けて行いました。

矢崎悠美HP

http://ameblo.jp/sougeiga/

能楽は10:30から。子供向けのプログラムで時間もたっぷりありましたので、今まで行ったチャンバラワークショップの他、摺り足や差し込み開等の基本動作、それに謡のお稽古も。お母様方や現地のボランティアスタッフの皆さんにも体験していただきました。

その後、合気道プログラム、創芸画プログラムと経て18:00からいよいよ公演スタート。今回アトキンス氏がいないため、通訳が出来るスタッフと空き時間でかなり打ち合わせを重ねました。その甲斐あってか、無事終了。バンクーバーでも沢山の拍手を頂いて帰ることが出来ました。

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終了後、後片付けなどを行い、バンクーバーを出発したのが21時過ぎ。車中で食事を摂りながらベルビューに着いたのは深夜を回っていました。今日は皆お疲れです。明日のために素早く就寝・・・と思いきや、また1人日本からのゲストが到着。この方、そもそも乗っていた便が遅れたためシアトルの空港に着いたのも予定より遅れ、合流したのも深夜になってしまったのでした。久々の再開と歓迎の意味も込めて乾杯!夜はまだまだ長いのでした・・・。

6月29日(土)

いよいよ今日は今回のツアーの山場でもあるアクトシアターの公演日です。24日に外観のみ下見はしたものの、建物内に入るのは初めて。興奮します。

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今回使用させて頂く会場は建物内に3つある会場の内、一番小さな会場を使用させて頂きました。座席数は約150席。お陰様で満席となり、2階の席までお客様でぎっしり。新たに今日から加わる日本からのスタッフも追加され、万全の態勢で挑ませて頂きました。

当日は既に現地シアトルで告知もして頂いていた北米報知新聞の方々もおみえになり、また今回多大な御協力を頂いた在シアトル日本領事館の総領事代理・百々智子さんもお忙しい中、駆けつけて下さいました。

公演前に別会場でレセプションがスタート。準備中の私達は参加できませんでしたが、その分、気合を入れつつ開演に臨みます。14:00公演スタート。アトキンス氏による能の解説、型、構えの説明・実演、会場の方10名に舞台に出て頂き斬り組の実演も行いました。これは皆さんとても楽しんで頂けたようです。休憩をはさみ、「清経」の謡、仕舞の披露、最後は謡「高砂」を皆でお稽古しました。最後は百々総領事代理による花束贈呈もあり文字通り花を添えて頂きました。終演後のお客様の反応もとてもよく、終わってから写真攻めと握手攻めに遭いながら、次が控えているため、泣く泣く会場を後にしました。

会場から車でベルビューに移動。このままホームステイ先に帰ると思いきや、実はこの晩あるお宅へお邪魔することになっていました。アメリカにおいて最も成功した日本人の1人と言われているN様のお宅です。こちらもまた本当に凄いお宅で、映画のワンシーンを見ているかのような素晴らしいお宅でした。今夜、こちらでシアトル在住のさまざまなゲストをお呼びしパーティーが開かれるのです。

お料理はこちらのお宅の息子さんがわざわざ白木のまな板まで新調し!素晴らしいプレゼンテーションでお寿司など日本食を中心としたお料理をご用意して下さいました。ネタも特別に仕入れて下さったそうで、日本で食べるものと同じくらい、またはそれ以上にとても美味しく、皆さん本当に喜んでいらっしゃいました。

限られたゲストの方々の前で仕舞をそれぞれ披露。そして今回特別に持っていた装束の着付けを行いました。それぞれの会場で装束を展示しておりましたが、間近で見る装束に皆さん興奮。代表して身にまとわれた方も大変喜んで下さいました。

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その後、パーティーは交流会と化し、私も色んな方と御挨拶、歓談を楽しませて頂きました。18:00から始まったパーティーですが20:30頃を終了予定としておりましたが、皆さん楽しんで下さったのか「暗く」なっても一向に終わる気配がなく(笑) 結局食事を摂れなかった私達やスタッフ達もお料理を頂くことになり、N様宅を後にしたのは23時を過ぎていました。遅くまで御自宅をご提供いただきましたN様ご一家、本当に有難うございました!!

そうそう、1つ言い忘れていたことが。

日本を発つ時、新宿駅で壊れたスーツケース、現地のスタッフに世間話として話していたところ、こんな事を言われました。

「アメリカでは催し物が大成功した時の例えで『椅子の足が壊れるほど観客が喜ぶ=興奮し過ぎて体が揺れて座っていた椅子が壊れちゃう』って言うのよ。スーツケースの足元が壊れたなんて幸先いいね!今回のツアー絶対成功するよ!!」と。

この夜、この言葉をしみじみ思い出していました。本当に自分1人の力で何が出来るか分からないながらも必死にやってきた。でもこんなに沢山の人に触れ合えて、喜んで頂けて本当に大成功だったんじゃないかと。公演はあと1日残っていますが、自信を持って明日に挑める、そう思った夜でした。

6月30日(日)

今日は最後のベインブリッジ・アイランドです。会場へ行く前に滞在時、ずっとお世話になっていたスタッフの1人Iさんが子供さんを連れて日本へ帰国されるとの事でしたので、お見送りを兼ねてまたお宅へお邪魔しました。しばしのお別れを言った後、ベインブリッジ・アイランドへ。この日シアトルではゲイパレードが行われていました。アメリカの各都市で毎年6月下旬に行われているゲイパレード、私は拝見できませんでしたが、シアトル市内の大きな通りは車両通行止めとなりなかなか盛大なパレードだったようです。

既に乗り慣れた(笑)フェリーに乗ってベインブリッジ・アイランドへ。

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船内で販売しているクラムチャウダーが評判らしく頂きました。とても濃厚で美味しかったです。まずは島のメインストリートから少し入ったところにあるWABIというお料理屋さんを営業時間外に特別に開けて頂き地元の方々20名ほどと交流会を致しました。地元の学校を経営されている方や、何十年も前から謡のお稽古をなさっている方など様々な方々と歓談、少し謡も披露させて頂きました。この後行われるベインブリッジ・アイランド・ミュージアム・オブ・アートでの杮落し公演に参加できない方々もいらして(お陰様でチケットが完売となり)交流会だけの参加の方もいたので「来年はきっと見せてね!」と言って下さる方もいらっしゃいました。

その後、フェリー乗り場からすぐのベインブリッジ・アイランド・ミュージアム・オブ・アートへ。ここは今年の6月にオープンしたばかりの美術館で杮落し公演として急遽お話を頂きました。あちこちから外の光がふんだんに入るとても明るい美術館で気持ちも新たに、身が引き締まる思いです。

公演の前にSV Networksという会社の取材を受けました。

http://www.ibukimagazine.com/

(こちらのHP内右側にあるIBUKI TVという欄の「Interview with Munenori Takeda, Noh Actor」というところをクリックしてください。今回のベインブリッジ・アイランド・ミュージアムでの様子も少しご覧いただけます。インタビュー時の後ろに飾ってある画、公演中の屏風はいずれも矢崎悠美さんの作品です)

内容は昨日のアクトシアターでのものとほぼ同じ内容で挑みましたが、これまでのお客様の反応も考慮しつつ多少アレンジをしました。最後の公演はやはり感慨深いものがありました。今回最終的な段取りがすべて決定したのは出発の3週間前。それから寝る間も惜しんで準備を続けてきましたが、悔いのない公演に出来たと心から思います。

終了後、ゲストの方を交えてレセプションを行いました。日本からこの日のためにシアトルまで足を運んで下さった方もいらっしゃいました。舞台に立つと雄弁なアトキンス氏も普段はとてもシャイなのですが、ゆっくりお礼を伝えることが出来ました。

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達成感と充実感から終演後はスタッフと時間も忘れワイワイ歓談。美術館のスタッフの方が「もう鍵締めますよ~」とばかりに「早く片付けてね」オーラ満載でいらしたので、はっと時計を見るとなんと21時を回ってるじゃないか!恐るべしシアトルの太陽。既述の差し込む光が美しいこの美術館ではどこをどう見ても本当に昼間みたいなのです。慌てて後片付けをし暗くなってきたベインブリッジ島を後にしました。

さて、時刻は既に10時を過ぎ、本当ならこのまま帰宅というところですが、公演最後の夜なので皆でご飯を食べよう!となりシアトルのインターナショナルディストリクトの中華料理屋さんへ。お勧めのワンタンメンをほぼ1人1人前ずつ注文。

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あとは肉料理、野菜料理、チャーハンなどを分けながら戴きました。夜深い時間の疲れた胃袋にワンタンスープが染み渡る~。紹興酒も戴き、とても満足して帰りました。

7月1日(月)

この日はベルビューのハイアットホテルで先日アクトシアターにもお出で頂いた北米報知新聞の取材。沢山お話しさせて頂いたのですが、本当に上手くまとめて頂きました。また、2号に渡っての掲載。編集長はじめ皆様大変御世話になりました。

※別記事をご参照ください。

近くのフードコートで軽く食事を摂った後、今回の公演で使用させて頂いていた木刀をお返ししに、レルニックさんという方のお宅へ伺いました。この方は鹿島神道流の古武術を教えていらっしゃる方で、道場も拝見させて頂くことに。海外で、しかも外国人の方に日本の古武術を間近で拝見させて頂けるとは本当に嬉しく有難い事でした。お礼に私達も謡を披露して参りました。

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その後、同じウッディンビルという地域にある、シャトー・サン・ミッシェルというワイナリーとレッドフックというビール工場を見学。父へのお土産はここで購入しました。

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次に、今回司会兼通訳をお願いしたアトキンス先生も在籍するワシントン大学を見学。その後、在シアトルのM様宅へ訪問し、Mさんがよく行かれる喜作(きさく)寿司へ連れて行っていただきました。こちらで頂くお寿司もまた格別。シアトルは海が近いせいかお魚が新鮮で本当にお寿司が美味しく戴けます。

今夜も大満足で眠りに付けそう。明日は最後のシアトル滞在日です。

7月2日(火)

公演全てが終了し、満を持して新しいスーツケースの購入へ(笑) 今回やはりお世話になったスタッフの1人が普段お勤めされているシアトル・ダウンタウンのMacy’sへ。アメリカの百貨店として有名ですね。こちらで新しい物を購入致しました。

その後、29日に公演を行ったアクトシアターへ向かいました。また行くの?って?そうです、来年の下見なのです。今年のアクトシアターの公演をご覧頂いたアクトシアターのトップの方が来年も是非公演をと言って下さったのです!それで、次の公演の仕込みをされている会場を下見させて頂くことになりました。既述通り、29日の公演では一番小さな会場をお借りしたのですが、来年は中程度の会場で検討してみることにしました。

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こちらは作りがとても面白くて、天井が高く、座席の組み換えやセットも自由に組めるそうで、正に「シアター」という感じがしました。ここに能楽という和の要素が融合したらとても面白いものになるだろうなと実感。ついでに残りの一番広い会場も見せて頂きました。どちらも素晴らしく、色々とイメージを張り巡らせると既にワクワクしてきます。アクトシアターのスタッフと日程の打ち合わせなどをしつつ、会場を後にしました。

その後、スタッフは二手に分かれて私達能楽師チームとシアトルスタッフは作曲家・ギャレット・フィッシャー氏と会食へ。シアトルを中心に活躍されているギャレット氏は現在能楽をテーマに現代演劇を創作なさっている作曲家です。地元ではその活躍ぶりは大変有名で、今後何かの形でお互いの活動のサポートが出来ればとスタッフの方が会食の場をアレンジして下さったのです。

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ジャンルは違えど同じ芸術家として色々なお話しが出来、非常に興味深い時間を過ごさせて頂きました。

余談ですが、その間、もう一方のスタッフチームはパナマホテルという場所に居ました。

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インターナショナルディストリクトの昔、日本町と呼ばれた地域に現存する小さなカフェ&ホテルです。1910年に建てられたそのホテルはアメリカで唯一の日本式銭湯の文化を取り入れ地下に大理石で出来た湯船を擁する銭湯を完備。ピーク時2万人とも言われた、日本人移民の交流の場として栄えていました。その後、銭湯は1950年(一説には60年頃とも)に閉鎖されたままでしたが、1985年に現在のオーナーであるイタリア人の女性オーナーがホテルを買い取った際に地下から出てきた銭湯を発見。

ここにある歴史をそのまま伝えようと当時のままの銭湯(木製ロッカー、げた箱など含む)を残しツアーなどを行っています。今回は時間がなく、地下の銭湯は拝見できませんでしたが、アメリカにおける日本人の歴史の重みを感じられる非常に貴重な空間でした。「あの日、パナマホテルで」ジェイミー・フォード著(アメリカでは100万部突破)も読んでみようと思いました。

さて二手に分かれた能楽師とスタッフはまた合流し、シアトル美術館(通称サム)へ。実はこの日は休館日。にもかかわらず、私達能楽チームのために特別にキュレーター解説付きのツアーを組んで下さったのです!!なんという特別待遇!!この日開催されていたのは「フューチャー ビューティー」と題した日本発ファッションの30年史といった内容の展示が開催されていました。また偶然!ヨウジ・ヤマモトやカワクボ・レイといった時代を作ったデザイナーの作品から現代の原宿ファッションまで沢山のファッションを拝見させて頂きました。館内の撮影は出来ませんでしたが、サムの巨大シンボルアート「ハマリング・マン」を。

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その後、全員で最後の最後の打上げパーティーのため、私たちがホームステイさせて頂いたBさん宅へ。沢山の人と沢山のお料理。皆の笑顔でとても素敵で感動的なパーティーとなりました。このパーティーには村上春樹作品の翻訳者で知られるハーバード大学のジェイ・ルービン氏御夫妻も来て下さいました。日本文化研究においてアメリカナンバー1であるルービン氏は実は能楽にも非常にお詳しいのです。謡の出だしを聞いて「これは何番目ものだな。」とお分かりになるくらい。今回シアトル公演用のプログラムにも寄稿頂きました。本当にスゴイ事です。

実際公演が行われていると、毎日一緒にいるスタッフでも話をするのは現場の事ばかりで、ゆっくり語らうという事は出来ませんでした。この夜は皆さんに感謝を伝え、今までの事、これからの事、夢など沢山語りました。実はこの日、皆さんにお1人ずつお気持ち程度のプレゼントをお渡ししたのですが、最後に今回のスタッフの中心メンバーであり、私達の滞在先として御自宅もご提供いただいたBさんに気持ちを伝える時に、私は皆さんの前で思わず泣いてしまいました。「えっ!?あの宗典が?」と思う方もいらっしゃると思いますが、嬉しくて有難くて感情があふれ出してしまいました。

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今回、予算もなく、皆さんほぼボランティアで動いていただき、日本・シアトル両方で御協力頂いたスタッフは数えられない程です。自分のためにこれだけ多くの方々が力を合わせ1つの事を成し得たというのは自分の人生にとってかけがえのない財産であり、これからの舞台生活にとっての励みでもあります。大げさかもしれませんが、それ位、私は今回の北米公演で皆様に感動を頂きました。この気持ちをまた感謝に変え、国内外問わず、誠心誠意日々の舞台を勤めていきたいと改めて強く感じました。

少しずつ帰っていく皆さんを見送りながら、そして夜は更け・・・

7月3日(水)

帰国の日。12:30のユナイテッド・エアラインに乗るため、Bさん宅を9:30頃出発しました。お見送りに皆さん来て下さり、嬉しくもあり、名残惜しくもあり。あっという間に時間となり、来年またここに戻ってくると決意しつつ、皆さんとそしてシアトルの街と「しばしのお別れ」をし、帰国の途につきました。

(インタビュアー:前田玲奈)