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2015年6月 インタビュー

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早いもので、2015年も折り返し地点に近づいて参りました。今年もパワー全開の宗典さんに、様々語って頂きます。

Q.今月28日の朋の会をご紹介ください。

A.能は武田祥照(よしてる)君の「蘆刈(あしかり)」と武田文志(ふみゆき)の「杜若(かきつばた)」と佐川勝貴(まさたか)の「船弁慶(ふなべんけい)」の三番です。今まで同様、今回もバランスを考えて、初心者向けと中級者向けを偏らないように番組を組んでいて、お客様にご覧頂き易く仕立てています。大切なのは能に親しんで頂くことですから、毎回解説書を配布したり、切符のお値段を抑えたり、といった配慮もいたします。

Q.皆さん朋の会では、解説役もなさいますね

A.正直なところ、怖いんですよ、人前でお話するというのは(笑)。ものすごく勉強なさっているお客様もいらっしゃいますから、迂闊なことは言えない。でもつまらないことを言ってもしょうがない。そして全くの初心者の方もお越しになる。じゃあどう話せばいいの?って、話を組み立てるのはとっても大変な難しい作業です。今でも出来ることならば解説はやりたくない(苦笑)!まあでもせざるを得ないわけです。結局はすべて自分の為になりますから、やっていかなければいけないなと思っています。

Q.来月は能尚会にご出演です。

A.主催者の武田尚浩さんは私の父の従兄弟にあたります。今回は7月19日に目黒の喜多能楽堂でいたします。崇史君(たかふみ:ご次男)が「巻絹(まきぎぬ)」、尚浩さんと祥照君(ご長男)は「蝉丸(せみまる)」という作品を演じます。私は「巻絹」の地謡を担当します。「蝉丸」は私もツレ役を30歳頃だったかに経験しました。すごくやりがいのある作品ですね。盲目の天皇家の王子が山中に捨てられる。彼には逆髪(さかがみ)というお姉さんがいて・・・この部分はフィクションですが・・・、そのお姉さんは事情あって都を離れて放浪の旅に出て、偶然姉と弟が再会して互いの境遇を嘆き合って、そして別れて行く、という情感豊かな物語です。チケットまだあるかなあ?満席になっちゃったかな?もしよかったら是非ご覧ください!

Q.8月には、毎年恒例となった「夏休み親子能楽ワンダーランド」も開催されます。

A.いつも通り、七拾七年会のメンバーでつとめます。能は文志が「殺生石(せっしょうせき)」のシテをつとめ、私は地頭(じがしら:地謡のリーダー)をやらせて頂きます。午前中はお子さん方の体験の指導で、午後から舞台をつとめます。子供さんのリピーターはかなりいらっしゃいますね。体験は、毎年あえて同じことをやってもらうことにしています。子供さん達の体験のお世話はとっても大変なのですけれど、楽しいです。中にはぱっと言うことを聞けない子もいますけれど、ちょっと制して聞いてもらうようにします。親御さん同伴なので、親御さんにフォローしてもらえます。そして同時に親御さんにも能楽に触れて頂く。大勢の子供さんを相手にすると疲れますが、心地よい疲れです。何かパワーのようなものをもらう、という感じがしますね。

Q.子供さん達は「おにいちゃん」といった空気感の方とは接しやすいでしょうね?

A.そうですね、数年前に横浜能楽堂から声をかけて頂いたのは、そういった点もあったのでしょう。「おにいちゃん」的な存在であり続ける必要はありますね。まだしばらくは大丈夫との自信はあります(笑)!

Q.前々から東京以外の場所でも活躍なさっていらっしゃいますが、それについてお話しください。

A.私は関西には結構ご縁があって、時折大阪の観世流の若手と一緒に稽古をしたりします。人数的には東京の方が多いのですが、関西は少ない分、家筋の違いを超えて若手がぱっと集まって何かやるということがあります。とっても仲がいいなあ、と羨ましいです。東京は仲が悪いというわけでないんですよ(笑)。けれど東京は家々で分かれて活動してしまう傾向があって、よそと交わりが少なかったりしますね。

Q.活動拠点が違っても演じているものは同じですから、問題は特にありませんね?

A.もともと能は関西のものです。物語の設定は京都の都か奈良の都が絶対的に多い。関東はせいぜい鎌倉がちょっとあるくらいですね。能は地域で演出が大きく違いはしません。言葉のイントネーションが違うわけでもない。関西であろうが関東であろうが、九州、東北、どこでも言葉は同じです。言葉に地域性が無い分、楽ですね。私がいきなり大阪の舞台に立っても、観世流である以上は違和感無い。言葉のイントネーションが違ったとしたら、関西に行ったり九州に行ったりしないでしょうね。

Q.流派による違いとはどういうものなのでしょうか?

A.舞は結構違いますね。動きのひとつひとつから違います。謡い方は多少違ったりしますが、言葉はほとんど一緒です。ずっと他の流儀を習っていらっしゃるアマチュアの方が、もし仮にいきなり観世にいらっしゃったとしたら、最初は少しぎくしゃくされるでしょうけれど、うまく慣れることが出来れば全くダメという事はないかと思います。細かいところが違っても能は能であるわけで、流儀が違うと舞台が全然違うかというと、決してそんなことはありません。規模は大小ありますけれど、どこかの流派だけがすごく素晴らしいということも絶対にありません。お客様が何をご覧になりたいかは、まずはご自身の好み、そして演者の技芸の良し悪しです(笑)。

昔は複数の流儀を見るお客さんというのはいなかったですね。自分が好きな、もしくは習っている師匠とその一門だけしか見ない、というのが圧倒的に多かった。今でもそういった見方をなさる方は多いと思います。前に私が関わっていた「丸の内朝大学」という講座では、金剛流以外の四流のシテ方が交代で講師をつとめていたので、受講者さん達は皆四流全部をご覧になっていました。それはシテ方にとっては非常に好ましい緊張感でした。講師はほとんど全く同世代でしたし、受講者さんに「武田先生だけ技芸が落ちるね」なんて絶対思われたくないわけです!

いろいろ見られて評価されることは能楽界全体の活性化に繋がるでしょうから、一般のお客様にもいろいろ見て頂きたいと思います。目が肥えた方々からは厳しいご批評を頂くこともあるでしょうけれど、それを糧にしつつ、皆で能楽界全体を盛り立てて行けたらいいですね。

減速知らずの宗典さん、これからもご自身の為、観世流の為、そして能楽界全体の為にご活躍なさることを期待いたします。これからの厳しい季節、どうぞ健やかにお過ごしください。

(インタビュアー:朱雀)