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2014年6月 インタビュー

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Q.七拾七年会が突然七月にお引っ越しなさいました。

A.実は、渋谷の観世能楽堂が来年三月で閉館いたします。そこで、閉館前の観世能楽堂で大きな規模の七拾七年会を行おうとの話になりました。来年一月に開催と決めたのですが、それまで待っていては今年中何もしない事になってしまうわけで、それは良くない。では前回と次回の真ん中にあたる夏に通常の公演をやって、来年一月に大きいのをさせて頂こう、というはこびになりました。17日と既に日程は決まっています!

話題を七月に戻しますと(笑)、12日にセルリアンタワー能楽堂で七拾七年会を行います。今回はお客様のニーズとかご要望にお応えしよう、試行錯誤してみよう、との考えで、公演形態をいくらか変える事にしました。例年は平日夜に二日間でしたが、それを土曜日一日の昼夜二部制にする、一回の公演を出来るだけコンパクトにする、夜の終演時間を早めにする、といったところです。解説とワークショップは外せないものですから、継続します。演目自体は短いものを選んだわけではなく、能と狂言だけに絞り込んだプログラムにいたします。

昼の部で私は「鉄輪(かなわ)」という作品のシテをつとめます。夫に捨てられた女性が、元夫と新しい奥さんに呪いをかける、けれど安倍晴明(あべのせいめい)の妖術とか祈祷というものに退けられるというお話です。二部では従兄弟の文志(ふみゆき)が、「項羽(こうう)」という演目のシテをつとめ、私は地頭(じがしら)、つまり地謡(じうたい)のトップをつとめます。どちらも初心者の方が予備知識無しにご覧になるとやや難しい作品ですが、解説をお聞きになった上であれば、理解し易いはずです。ぜひ、大勢のお客様にご来場頂きたいと思っています。

Q.鉄輪の様な役のご経験はおありですか?

A.「葵上」の六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)の経験があります。六条御息所と鉄輪の違いは良く話に出るところなのですけれど、六条御息所は貴族という立場のある人物なので、心の中に葛藤はあっても抑えた演技をします。鉄輪は庶民なので、激しさも見せます。激しいばかりでは美しくないので、抑えたところと激しいところと差をつけなければいけません。そして、「恨みを晴らしてやる!」という怒りだけではなく、「自分の方を向いて欲しい」「昔は愛を誓い合った仲だったのに、どうして私を捨ててしまったの」という悲しみを心のどこかに残しておかなくてはいけないのです。ふと我に返ってさめざめと泣くといった、気持ちの揺れをはっきり出す事が求められる、恋愛感情の深層心理をえぐり出しているという感じの作品ですね。面白いと思うと同時に、私の様な若造にはたしてそこまでの表現が出来るのか、という不安もあります。六条御息所も難しいのですけれど、鉄輪の方が現実的な部分という難しさがあるのではないでしょうか。

Q. 七拾七年会では、いつも演目はご自身で選ばれるのですか?

A.必ずしも自分がやりたい物が最優先でやれるわけではありません。まず皆で会議をします。どういう演目がいいか、何がお客様に喜ばれるか、皆は何がやりたいか、といろいろな意見を出し合って決めます。

Q.企画会議はどのように行われるのですか?

A.誰かの家で行います。結構時間をかけて何回もやります。話はあっち行ったりこっち行ったりしますから、当然長くなりますね。AプロBプロと作るのであれば似通ってはいけない、逆に関連を持たせるのならどう持たせる、などあれこれ時間をかけて考えます。終わった後に「じゃあ呑もう」とはなりますけれど、会議中はお酒は一切無しです(笑)。

Q. 横浜能楽堂で開催の「夏休み親子能楽ワンダーランド」をご紹介ください。

A. 七拾七年会がよばれるようになって、今年で四年目になるのかな。午前中は体験型のワークショップで、午後は狂言の「柿山伏(かきやまぶし)」と能の「船弁慶(ふなべんけい)」をお見せします。「船弁慶」は長いですから、工夫して短くします。前シテが文志で後シテが私と二人で分けるのも、支度の時間をカットする為の狙いでもあります。義経は章志(あきゆき:友志長男)がつとめます。お子さんのお客様にとって、子供が舞台に出ているというのは、非常に大きな刺激になり、集中して観て頂けるようです。横浜能楽堂さんも、会場内に興味を惹く仕掛けをいろいろ作ってくださったり、クイズを用意してくださったりと、盛り立ててくださいます。

Q. これからの暑くなりますが、能楽師にとって夏とはどういう季節なのでしょうか?

A.冷房があってもかなりしんどいです。消耗しますね。冷房が無かった時代は、夏に装束を付けて演じる事はしませんでした。せいぜい、袴能といって絽の紋付に袴で演じる程度でした。今は装束をつけての公演がいくつもありますから大変です。

随分前ですが、ある地方都市で八月の半ばに芝能が開催され、出演いたしました。恐ろしい事に、その日はどこかよそで最高温度を更新したという日だったのですね。公演は夜でしたけれど、昼に申し合わせ(リハーサル)をしなくちゃいけないわけです。けれど、芝生が暑くて立っていられない!足袋を履いているけれど、立っていると火傷するんじゃないかという程暑い!あれは辛かったですね〜(苦笑)。

これから厳しい季節を迎えるというのに、スケジュールはいっぱいのご様子です。体調管理にはくれぐれも気をつけてお過ごしください。

(インタビュアー:朱雀)