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2013年5月 インタビュー

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Q.今回は、来月6月8日(土)に行われる「朋之会」のお話を中心に伺います。

「朋之会」にて、能「半蔀」のシテを勤められますが、この演目を選ばれた理由がありましたら、お聞かせください。

 A.実は、「半蔀」のようなしっとりした演目をあまり勤めたことがなかったんですよ。というのは、「朋之会」は昨年まで「武田同門会」という名称で、平日の夜に公演が行われていました。私のお客様はお仕事を終えてからいらっしゃる方が多かったので、一日の最後に上演される演目のもの、初番目物から五番目物まである中で、四番目・五番目に当たる演目を多く演じていたんですね(例:昨年12月に務めた「雷電」等)。今までに演じた三番目物は、「羽衣」と「杜若」ですが、これは初陽会(武田宗典氏のお弟子さんの発表会のこと)の番外で勤めたものなので、プロの会で三番目物のしっとりした演目を演じたことがないんです。「道成寺」や「葵上」のような演目は経験したことがあるのですが。このようなしっとりした演目を演じたいと以前からずっと思っており、また、「朋之会」が土曜日に行われることになりましたので、今回、「半蔀」を選んでみました。それに、「半蔀」のような曲は難しいのではないかと思うんです。

Q.それは、なぜでしょうか?

 A.シテの行う表現が少ないからです。謡の分量もそれほど多くなく、仕舞も型が少ないんですよ。そういうものは、どのように表現していくか力量を試されるのではないかと思いました。また、「序之舞」(能の舞事のひとつ。非常に静かな品位ある舞)という舞を舞うのですが、どのように舞いこなせるかということは、能楽師としての今後の人生で重要なのではないかと思ったので、ぜひ取り組んでみたいと考えました。自分には荷が重いとも思ったのですが、チャレンジしようと。

Q.なるほど・・・謡も仕舞も少ない「半蔀」のような演目では、何を大切だと考えられますか?

 A.基本動作や佇まい、そして、自分自身の中でどのように考えて演じていくのか、ということが大切だと考えています。それは、これから色々な方のご意見を伺ったり、自分でも研究しながら練っていかなければならないと思っています。

Q.「半蔀」の見所やイチ押しの場面がありましたら、教えてください。

 A.仕舞の部分でしょうか。また、演目の雰囲気も見所ではないかと思います。蔀屋という装置があるのですが、後見がその扉を開けたり閉めたりする一連の動作が、あたかもシテが行っているかのように見え、神秘的・幻想的な雰囲気があるんですよ。夕顔の君というのは儚い死に方をしている方で、類似作で「夕顔」という作品もあるんですよね。「夕顔」のほうが少し重い感じの作りですが、「半蔀」は夕顔の花から(夕顔の君が)抜け出たような登場の仕方をして、ファンタジックな雰囲気になっているんです。果たして自分がどのように表現できるのかと思うのですが、そのあたりを研究し、チャレンジしたいと思っています。

Q.「朋之会」へ能初心者の友人と行く予定です。初心者でも、能、そして「半蔀」の世界を楽しめるでしょうか・・・?

 A.今回「謡サロン」の開催はありませんが、それをフォローするものとして、導入となるような資料を当日お配りしようかと思っています。やはり、世界観をお伝えしてから、想像して観て頂いたほうがよいかと思いますので。また、「半蔀」の前後には、「清経」・「船弁慶」と分かりやすい演目がありますので、そうした演目の間に「半蔀」があって、「朋之会」全体として能を楽しんでいただけるのではないかと思います。

Q.「半蔀」には夕顔の君という源氏物語の人物が登場しますが、源氏物語の女性のなかでは誰が魅力的だと思われますか?

 A.すごく難しい質問ですね・・・うーん、魅力的、というよりは、心惹かれると思う人物は、浮舟でしょうか。なぜだか心に残っているんです。二人の男性から求婚される、「求塚」という能で似たような演目があるのですが、ちょっと似ているなあと思っていて、すごくドラマチックに見えるんです。なので、浮舟自身の個性というよりは、彼女の辿ってきた人生が、ですね。正しい解釈かどうかは分かりませんが、「源氏物語」というのは女性の色々な面の魅力を集めているものではないかと思うんですよ。だから、誰のどこが良い、というのがちょっと上手く言えないですね(苦笑)。ある意味で、全てが魅力的なのではないでしょうか。

Q.「半蔀」のお話、ありがとうございました!それでは、公演以外の事柄についても、お話を聞かせてください。
宗典さんは大変お忙しいですが、その中で健康を保つ秘訣・リフレッシュ方法はあるのでしょうか?

 A.健康を保つ秘訣・・・といっても、特別なことは何もしていないんですけどね(笑)基本的にはそれなりに寝るようにしていて、バランスの良い食事を心がけています。外食もありますが、なるべく野菜を多く摂るようにしていますね。また、リフレッシュ方法ですが、友人とお酒を飲んでいる時間が何よりのストレス解消になりますね。それほど時間はありませんが、今やそれしかないのではないかと思うくらい(笑)なので、なるべくその時間を取れるよう、調整しています。まあ、飲み過ぎてしまっては体に害になると思いますので、ほどほどにはしていますが。

Q.それがいつも若々しく、美しくいらっしゃる秘訣なのですね・・・。お仕事柄、本番の舞台等、緊張される瞬間が多いと思いますが、リラックス方法はありますか?

また、本番前はどのようなお気持で臨んでいらっしゃるのでしょうか。

 A.うーん・・・緊張というか、変なあがり方はしませんが、緊張感は常に持っています。いかに集中力を高める状況を作るか、ということを考えています。気持ちの持ちようやサイクルなど・・・例えば、本番の直前には煩雑なことをしない、とか、自分の中で上手くリズムを作れるように努めていますね。というのは、能はとても集中力を要する芸能で、長いものも短いものも総じて集中力が必要になるんです。集中力を保てるような、発揮できるようなやり方を色々考えながらやっています。といっても、(坐禅のような)精神統一みたいなことはしませんけれども(笑)。

Q.本番前は、お一人で準備されているのでしょうか?

A.いえ、他の能楽師の方とお話したりもしますよ。能装束を着付けて頂いたりもしますしね。押し黙って集中力を高める、というやり方ですと、逆に自分にプレッシャーをかけることになってしまうことにもなりかねません。ある程度フラットな状態でいて、舞台に出る瞬間にどれだけ集中力を高められる状況を作ることができるか、というのが重要だと思います。

Q.ちなみに、昨年の大舞台「道成寺」では、いかがでしたか・・・?

A.何か特別なことをしていたという記憶はありませんね。入念にストレッチをする、等はしましたが、正直、あまり会の前ことは覚えていませんね。舞台上でのことはよく覚えていますが。それだけ当日舞台の集中力が高まっていたんでしょうね。集中力が高まると、役に入り込むこともできるし、冷静になることもできるんです。緊張で舞い上がってしまうような状況は作らないようにします。そのためには、とにかく沢山稽古をすることだと思います。それが、自分自身に対する不安を打ち消す、何よりの材料になると思うので。

沢山のお話をどうもありがとうございました。興味津々でお伺いさせて頂きました。

来月は、幻想的な「半蔀」の世界へ浸りに参ります!

                                  (インタビュアー:島の千歳)